本日の日経WEB版に相続のときの代償分割の注意点についての記事が掲載されていました。

代償分割とは、長男が相続財産の価額うちの大半を占める自宅を取得するときに他の相続人である兄弟に、相続分の不足分を長男がたの兄弟に支払うことをいいます。

その資金を調達するために、資産(株式や不動産など)を売却した時の譲渡益からは、代償分割として他の相続人に支払った金額は経費として差し引けないこととなります。

このことは、なかなか、理解しにくいことのようです。

こういった、代償分割に潜むリスクについて分かりやすく説明されていますので、原文のまま、ご紹介させていただきます。


遺産相続の際に土地などの名義を自分に集めてもらい、その代わりに他の相続人に対しては自腹を切る形で補填する――。「代償分割」と呼ばれる手法ですが、実践にあたっては押さえておきたいポイントが少なくありません。

故人が残した遺産の構成によっては、例えば不動産の名義を誰かひとりだけが相続すると不公平になり、他の相続人が納得しないという場合も十分ありえます。そうなれば遺産の中だけですべてを調整することは難しくなりますから、得をする人間が自己資金を使ってバランスを取らないかぎり、話が前に進まないということも出てくるでしょう。

しかしながら、手続きを進めて行く前後には、もちろんメリットだけではなくデメリットも同時に発生します。リスクや不利益となる部分についても把握しながら、全体像をしっかりと見極めていく必要があるといえるでしょう。なかでもトラブルの火種となりやすいのは、遺産分けが終わったあとに個々に降りかかってくる「思わぬ出費」です。


長男「そんなバカな……。もう一度、ちゃんと計算してもらえませんか?」
 
税理士「落ち着いて下さい。そんなに興奮なさらずに」

長男「姉たちだってずいぶん得をしたはずでしょう? なんで僕だけにこんなに税金がかかってくるんですか!?」

税理士「他の方々は、今回の土地の売却とは無関係ですからね……」

長男「でもね、遺産分けのときに、この土地を僕の名義にしてもらう代わりに、僕個人の3千万円もの大金を姉たちに渡しているんですよ。土地が売れたからって、その渡したお金を考えたらね、僕のもうけなんて全然ないんだから」

税理士「残念ながらその3千万円という大金は、今回は当該土地を取得するために使った経費には含まれないということになります。土地を売って利益が出た分、きちんと所得税を納めていただかないといけません」

長男「そんなこと言われても……。僕だけがこの税金をかぶるなんてどう考えたって納得できないですよ」

代償分割というのは、あくまで遺産分けの手段の一つとして行うものです。現物の名義が変わり、お金は動きますが、つまるところお金自体は売買代金として支払われるわけではありません。したがって、他の相続人へ支払ったお金(代償金)は、土地を購入するという「仕入れ」に使った経費や対価とはみなされません。

例えば、父親の遺産である土地を兄・弟・姉・妹の4人で相続する家族があったとしましょう。このときに代償分割の形をとって、長男ひとりに土地の名義を集め、代償として長男は他の3人に対して1000万円ずつを払うことになったとします。この時点で長男は「1000万円×3」で3000万円のコストを負担したことになるわけですが、後日長男がこの土地を売りに出し、仮に4000万円で売れたとしたら、長男のもうけはいくらになるのでしょうか。

なんとなく、長男がこの土地を手に入れるのには3000万円もかかっているから、長男のもうけはその分を差し引いて、差額の1000万円だけになるのでは……と思ってしまいがちです。ところが、そうはならない、という取り扱いがあるのです。

これが、きちんとした「売買」の形であれば、土地の仕入れに使ったお金はそのまま利益から差し引いて計算してもらえます。しかし、「代償分割」の場合はそうはならないという取り扱いが明文化されています(所得税法基本通達38-7)。現状では、いくら大金を使って苦労して土地の名義を自分のものに変えたとしても、その代償金は仕入れに使った取得費とはみなされず、売却で出た利益から引いてもらえることはありません。このあたりの認識にギャップが生じていると、後々大変な目に遭う危険性も考えられます。

この他にも、代償分割の方法を選んだ場合に、課税関係に通常の相続とは異なる部分が出てくるケースがあります。代償分割だと、やりとりが起こるのは故人の遺産についてだけではありません。遺産をもらう代わりに、誰かが身銭を切っているわけですから、生きている相続人の個人資産も移動しているということになります。

そうなると、ことは亡くなった人の「相続税」の範囲だけにはおさまりません。プライベートな資産が動いたことによる、相続人個人の「所得税」の話が絡んでくるのです。しかもこの所得税は、相続税とは違って相続人全員が対象となるわけではありません。他の相続人からすれば、「お前ひとりの問題だろう」と切り捨てられてしまいがちな側面も持ち合わせているのです。

例えば不動産が対象となるケースなどでは、数千万円、あるいはそれ以上の単位での価値が付くような高額の資産であるという場合も珍しくありません。その高額な資産を代償分割の形で相続しようというのですから、代わりに支払うことになる他の相続人たちへの代償金についても、やはり相当な額になってしまったとしても不思議ではありません。手元にある現金だけでは全部がまかなえないという場面も出てくるでしょう。

となれば、代償金にあてるために、自身が所有していた株式や不動産などを売ってお金に換えて渡す、あるいはそのまま現物の形で渡す、ということが必要になってきます。カネに換えるにせよ、モノのままで渡すにせよ、どちらにしてもいったん誰かに譲り渡すというアクションが必要になるということです。そして、この「譲渡」というアクションに対しては、「譲渡所得税」がかかるかもしれない……というリアクションの問題が常につきまとってくることになるのです

そして、結果的に譲渡所得税が発生してしまったとしたら、その税金を払わなければならないのはいったい誰になるのでしょうか。実はこの負担は、代償金を「もらう」ことになる相手側に行くわけではありません。逆に、相手に渡すお金を用立てるためにモノを処分することになった側、つまり代償金を「払う」側にさらに負担がかかってしまうということになるのです。「いや、これはあくまで相手方に支払うための一時的な資金でしてね。私がずっと持ってるものじゃないんですよ。だから私のほうに税金はかけないでいただけますか……」という話は、基本的に通用しないということです。

たしかに、遺産分けの現場では「現物で分けるのが難しい」「かといって、売却して分けることもできない」といった種類の資産が出てくることがあります。そんなとき、自分の私的な資産から補う形を取ってバランスを取り、遺産を上手に残すという代償分割の方法が現実的な解決の糸口となるケースもあるでしょう。

ただし、代償分割を選ぶとなると、権利関係や課税のされ方については、どうしても通常の遺産分けの場合よりも複雑なものとなりがちです。そういった意味では、当事者にとって想定外のことが起きるリスクは、より大きくなってしまうように思います。

ひとつやり方を間違えれば、思いもよらぬ形で課税が発生するなど、大きなトラブルが起こり得ます。代償分割の方法での遺産分けを検討する場合には、後日の憂いを防ぐためにも、税理士などの専門家の力を借りつつ慎重に進めていくことが好ましいといえるでしょう。
【日経WEB 2013/5/21 7:00】

いかがでしたでしょうか・・・

税金は、よくよく、理解していないと、思わぬ課税の対象となってしまうことがありそうです。

くれぐれも、専門家と相談しながら・・・慎重な対応が求められそうです・・・


本日は、前回に続いて、『相続人に関する相続事例』について、お話させていただきます。

1 会ったことのない甥っ子さんに財産が相続されるケース

東京在住のA男さんとその奥さんB子さんは、一心不乱に働き続けて、裸一貫から都心の青山に100坪の家を持つことができました。
A男さんとB子さんに子どもはなく、2人住まいでした。

そして、A男さんが、突然、亡くなってしまいました。
相続の手続きを依頼した税理士にA男さんの亡くなったお兄さんに認知した男の子がいることを知らされました。
そのお兄さんは、子どもがいないものと思い込んでいましたので、全く予想外のことでした。

その義兄の認知した子どもにも相続権があり、A男さんの財産の4分の1は義兄の子どものものになりますと聞いて愕然となりました。
A男さんが、生前に、全財産をB子さんに相続しますと遺しておけば、このようなことにならなかったのですが、その手続きを踏む間もなく、亡くなってしまったわけです。

B子さんは、A男さんの遺した財産の価値のほとんどが自宅の不動産となりますので、遺産分割のためには、その自宅を売らざるを得なくなるかもしれないと、不安な日々を送ることとなってしましました。

このように、お子さんがいらっしゃらない場合や、婚外子がいる、再婚している、あるいは内縁関係などの複雑な事情があるときは、あらかじめ、相続人に該当する人をはっきりさせておくことが、とても重要なこととかってきます。

元気なうちに、相続人の確認、相続財産の棚卸と評価、相続税の有無の検証、等々を初めておくことが必要です。

次回は、『相続対策は元気なうちに』について、お話させていただきます。