日米仏が富裕層を照準とした課税強化に乗り出しています。

低成長に伴う税収減や高齢化による社会保障支出の膨張、貧富の格差の拡大、等々・・・

先進国に共通するこうした課題への一つの答えともいえるようですが・・・

富裕層の海外逃避などの問題も表面化しています。

果たして効果のほどはいかがなのでしょうか・・・

仏は、17年ぶりの左派政権として昨年5月に発足したオランド政権は高所得層から低所得層への「富の再分配」を掲げ、年100万ユーロ(約1億2000万円)を超える所得に対し、75%もの高税率を適用する方針を打ち出したようです。

オバマ大統領率いる米国は2013年、およそ20年ぶりの富裕層増税に踏み切るようです。
大型減税の失効や歳出削減が重なる「財政の崖」問題を巡る与野党協議で世帯年収45万ドル(約4000万円)超の世帯に対する減税を打ち切ることが決まりました・・・

そして、日本政府も、消費税率が10%に上がる15年から、所得税や相続税の最高税率をそれぞれ現行の40%と50%から5%ずつ引き上げることや相続税の基礎控除枠も現行の「5000万円プラス1000万円×法定相続人数」から「3000万円プラス600万円×法定相続人数」に見直すことが税制改正大綱に盛り込まれました。

3カ国が意識するのは格差の是正のようです。

経済協力開発機構(OECD)によると、格差の大きさを示すジニ係数は、米国が1980年代半ばの0.34から2000年代後半には0.38へと、日本も同期間に0.30から0.33へ悪化しました。フランスも00年代以降、悪化傾向にあるようです。

他国と比べて極端に高い税率で富裕層を狙い撃ちにすれば、海外逃避する富豪も出てきます。

仏では高級ブランドの世界最大手、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンのベルナール・アルノー最高経営責任者(CEO)もベルギー国籍を申請したようです。

日本でも一部の企業トップや資産家らが生活基盤をシンガポールなど海外の低税率国に移す動きが出てきています。

富裕層増税は、こうした副作用を上回る効果が期待できるのでしょうか。

ニッセイ基礎研究所の伊藤さゆり上席主任研究員は「政治的に、最も負担を求めやすい層に負担を求めているにすぎない」と話しています。

仏政府は所得増税の増収見込み額を最大5億ユーロとしているようです。超高税率の対象者はそもそも1500~2000人程度のようです。

日本の所得税と相続税を引き上げても、増収見込み額は年間約3000億円・・・

年間100兆円を超えてさらに増え続ける社会保障給付を賄うには、到底不足します。

米政府も一連の増税により向こう10年で金利収入の軽減分も含めて財政赤字を7400億ドル程度減らす効果があるとみていますが、財政規律を回復するため、1兆ドル程度の追加の赤字削減策が必要とみられています。

富裕層への課税強化と消費増税引き上げを抱き合わせた日本だけでなく、オランド大統領も前言を翻し、付加価値税(日本の消費税に相当)の増税を表明したようです。

富の集中が進むなか、富裕層の負担増を示さなければ、中間層以下の人たちを納得させられないようです。

3カ国とも「最終的には、一部の富裕層だけではなく、幅広い層の国民に社会保障関連を含めた負担を求めざるを得ない」と伊藤氏は指摘しています。
【以上、日本経済新聞WEB版 2013/2/3を基に作成】

結果的に、富裕層への課税強化だけでは、国の財政危機の解決には至らずに、消費税等の幅広い国民からの増税を求めざるを得ない状況のようです。

富裕層への課税強化は、貧富の格差是正と消費増税による中間層の方たちへの納得をえりうことが目的のようです。

ただし、今回の日本における相続税の基礎控除減額は、富裕層に限らずに都市近郊にお住いになっている中間層のかたにも影響を及ぼしそうです。

その一つに、無申告リスクがあります。

詳細は、次項以降でお話させていただきます。

これからの資産防衛は、各種税金の特例(特に相続税の小規模住宅用地の特例等)を見逃すことはできません。

特例の適用要件を、よく、理解し対応していくことが重要だと思います。


本日は、相続税の申告に関しての『無申告リスク』のお話をさせていたきます。

無申告リスクとは、例えば、『財産といえば自宅くらいだから相続税なんて無縁』と思いこんでいた場合に、将来、大きな損に繋がる可能性があります。

昨年4月に改正された小規模住宅用地の特例と今年4月に予定されている税制改正で相続税の対象者の裾野が広がることとなるからです。

ただ、今年4月の税制改正は、まだ、法案は成立していませんので、成立を前提としてお話させていただきます。

相続税の申告が必要であるのに、『私は全く無関係』と気付かないまま申告期限である相続発生(死亡)から10ヵ月が過ぎてしまうと、どうなるか?

その場合は、本来、使えるはずの特例の適用が使えなくなり、さらに延滞や無申告加算税というペナルテイ―が課される可能性があり、忘れた代償は相当に高い代償となります。

この無申告リスクで注意することは、相続税法上、各種の特例の措置がありますが、その取り扱いについてです。

例えば、土地の評価額を下げてもらえる小規模住宅用地の特例です。

これは、自宅として居住の用に供していた宅地については、一定の要件のもと、土地の面積240㎡まで、評価額の80%が控除してもらえる特例です。(他にも、事業用や貸付不動産に関する特例等があります。)

一例として路線価評価で㎡当たり200,000円の敷地面積が300㎡の土地の時は
土地の評価額 200,000万円/㎡×300㎡=60,000,000円
小規模特例額 60,000,000円×240㎡/300㎡×80%=38,400,000円
差し引き 60,000,000円-38,400,000円=21,60,000円が相続税の課税価格に算入される土地の評価額となります。

この規定の適用を受けるためには、たとえ、この規定の適用を受けると相続税が0円であったとしても、相続税の申告書を提出する事が義務づけられています。

要は、この38,400,000円の特例を受ける事で、相続税の基礎控除額以下となり相続税がかからない場合、逆にいうと、特例を使わないと相続税がかかってしまう場合においては、この規定の適用を受けるために、相続税の申告書つまり、納付税額が0円での期限内申告書を提出しなければんりません。

申告書の提出がなければ、この特例の規定の適用は受けられませんので、相続税が課税されることとなります。

これが、いわゆる、無申告リスクです。

このように、申告書の提出があって、特例が使える規定としては・・・
・配偶者の相続税の軽減
・配偶者への贈与税の特例についての生前贈与加算の不適用 
等があります。

他には、国等へ相続財産を贈与した場合の非課税等や農地等と非上場株式の納税猶予他があります。

当然、これらの特例を適用することによって、相続税額が0円となる時も申告が必要となりますので注意が必要です。

併せて、今年の税制改正の法案が成立した場合に、相続税の計算上、最も、影響の多いのが基礎控除額の見直しです。

現状は、『5,000万円+1,000万円×法定相続人の数』となっておりますので、法定相続人が妻と子供2人の場合は5,000万円+1,000万円×3人で8,000万円となります。何もしなくても、8,000万円を控除してくれる訳です。

税制改正案は、『3,000万円+600万円×法定相続人の数』となりますので法定相続人3人で3,000万円+600万円×3人で4,800万円とその差、8,000万円―4,800万円=3,200万円となります。

税制改正の法案の成立の結果次第にはなりますが、法案が成立しますと住居一つと金融資産と生命保険が相続財産という方も、土地の路線価価額と敷地の広さによっては、十分に、相続税がかかるか、かからないまでも申告が必要となる様なケースは増えてきます。

これからは、今まで、相続税は無縁と思われていた方も、財産の棚卸しを行っておくことが重要です。

くれぐれも、無申告には、ご注意ください。