今回は民法に関します『遺産分割方法』他についてお話させていただきます。

(1)遺産分割方法

分割協議の成立後に勘違い等で、分割協議書を作り直すこともあると思われます(中には協議書の書き間違いもあるでしょう)。

むろん皆の合意の下で作り直せばいいのですが、大きな問題が一つあります。

事実上税務署がこれを認めようとしないのです。

つまり「それは分割のやり直しではなく贈与だ」というのです。

税務署側にしてみれば、これを認めたら一般の贈与すら皆「遺産分割の修正」と逃げられてしまうのではないか、と考えるのです。

ですから、一度税務署に提出したもの等は、訂正が効かない(民法に「錯誤は無効」の規定があるとしても、国税側にこれを立証することは困難でしょう)と思っていただきたいのです。

民法は、遺産分割の方法として、現物分割、代償分割、換価分割、共有とする分割の4種類を定めています。

内容は読んで字のごとしで、現物分割とは、遺産を現物のまま分割する方法で、換価分割とは、共同相続人が遺産の全部又は一部を金銭に換価し、その代金を分割する方法ですが、このうち代償分割が実務上極めて大切です。

代償分割とは、ある相続人が特定の遺産を相続する代償にその相続人がその固有資産(通常金銭)を他の相続人に支払う、というものです。

たとえば、遺産は長男が同居している自宅のみで他に何もない場合に、長男がこの自宅を単独で相続する代わりに、他の相続人に対して長男がたとえば1,000万円を支払う、といったケースです。

これは一見遺産の売買のように思えますが、民法が遺産分割として定めている以上、売買ではないのです。

使い方次第では、代償分割は相続対策や節税対策にかなり有効となります。

相続人の中には、諸般の事情からあえて遺産の取得を希望しない人もいます。

その意思を表すために先の家庭裁判所に相続放棄の手続きをするケースもあるそうです。

しかし何もそんな面倒なことをする必要はないように思います。

要するに、当人に遺産の配分がないと記載されている遺産分割協議書に押印すればよいのです。

実務上大半はこれにより事実上の相続放棄を行っています。(わずかではありますが、相続放棄を行うと相続税の取り扱い上で不利になることもあります。)


(2)特別受益と寄与分

相続人の中には、被相続人から婚姻や生計の資本等のために多額の生前贈与や遺贈(遺言による贈与)を受けていることもあります。

これらの生前贈与や遺言を受けた相続人を特別受益者、受けた利益を特別受益といいます。

民法は相続の公平の見地から、具体的な相続を査定する(事実上の遺産分割)に当たっては、特別受益分を遺産に持戻した(加算した)ものを相続財産とみなしたうえで、決定すべきことを定めています。

なお、被相続人が保険料を負担していた生命保険契約の死亡保険金は、遺産ではなく保険金受取人の固有資産と考えられて
います。

一方相続人の中には、被相続人の事業に関する労務の提供や被相続人の療養看護等により、被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした人がいる場合もあります。

この場合には、その者の寄与分を加算した額を寄与者の相続分とする旨定められています。

なお、長男の嫁等は相続人ではありませんから、寄与分の規定は適用できません。規定の対象者は相続人に限定されている点に留意して下さい。

以上の特別受益や寄与分についての規定は、実際の円満な遺産分割においては『私は親の面倒をみたのだから・・・』とか『私は既にこれだけもらっているのだから・・・』といった形で常識的な考え方として生かされています。

具体的にこの規定がモノをいって来るのは、家庭裁判所における調停・審判の場であろうと思われます。

今回は『遺産分割方法』と『特別受益と寄与分』につきまして、お話させていただきました。


次回は、『遺言』に関する内容を、お話させていただきます。