本日は、民法の規定による『遺言』についてお話させていただきます。

1・遺言の要式性

遺言は死後に効力が生じるため、その真実生や内容が問題になっても遺言者に確認することができません。

したがって遺言者の真意を確保するために、遺言には一定の方式が要求されています。

その意味から遺言の形式は、次の3種類に限定されています。(これ以外にも死亡応急者の遺言等の特別の方式が4種類定められています。)


①自筆証書遺言

これは遺言者が、その全文、日付および氏名を自書したうえで、これに印を押さなければなりません。

さらに遺言者の加除その他の変更は、遺言者がその場所を指示しこれを変更した旨を付記したうえで、これに署名押印しなければその効力が生じないこととされています。

留意点は、全文を自書することです(ワープロなどは不可)。

日付は、複数の遺言が存在した場合の優先を判定する意味にも重要です。

押印は実印である必要はありません。

自筆証書遺言は、3種の方式のうち最も簡単な方法です。

とにかく上記の指示のとおりに書くだけでできてしまいます(書き誤りの訂正方法は多少やっかいです。謝ったら書き直せばいいのです。なお、遺言書は特に密封する必要もありません)。

他の方法が面倒であれば、この方法で十分であろうと思われます。

ただし紛失や変造等のおそれがないわけではないことや、保管方法にも工夫を要することにもなりましょう。


②公正証書遺言

公正証書遺言は、公証役場の公証人に遺言書を作成してもらう方法です。

多少手間がかかることと費用(相続財産に応じて10~30万円位?)を要することが欠点といえましょう。

さらに2人の証人も必要となります。

しかし紛失や隠匿のおそれが全くなく、秘密の確保は十分。

相続発生時においても家庭裁判所の検認を受ける必要はなく、遺言内容の効力についても全く心配ありません。

要するに百パーセント確実な遺言を残そうとするのであれば、公正証書遺言に限るのです。


③秘密証書遺言

この方式は、とにかく内容を一切誰にも知らせない状況で作成するためのものです(欠点が多く、実際にはほとんど利用されていないようです)。

したがって書面自体には方式はなく(ワープロも可)、ただこの遺言書に署名と押印したうえで、公証人と証人の立会いの下でこれを封入するのです。

但し公証人等は遺言内容をチェックしているわけでなく、不明確な内容である場合等後日の紛争が気がかりとなります。また遺言書の保管も公証人が行うわけではありません。


2・遺言の効力

遺言は遺言者の意思表示のみで成立する単独行動です。

一般の契約のように相手側の承諾は一切不要なのです。

さらに遺言の効力は、遺言作成(意思表示)の時ではなく、遺言者の死亡の時に初めて生じます。

この点も一般の契約と異なる点といえましょう。

遺言により財産を贈与することを遺贈といいます。

遺贈によく似たものとして死因贈与があります。死因贈与とは『死んだら贈与する』という約束です。

贈与者の死亡により効力を生じる点は遺贈と同じですが、死因贈与はあくまで契約(双方の意思の合致)であり、受贈者側の承諾を必要とするのです。

ただし、相続税法では死因贈与を遺贈とみなす、と定めています。

要するに両者を同一視して取り扱うのです。

さてご承知のように遺言者は、いつでもその遺言を取り消すことができます。

実際に遺言書を破棄してもいいし、新たに遺言書を作成してもかまいません。

日付の古い遺言書で新しいものと抵触する部分は取り消されたものとみなされるからです。

遺言書の保管については、民法には何の規定もありません。

遺言者が自らの責任で保管するわけです。

保管者としては遺言によって守られているであろう配偶者等が多いようですが、友人や弁護士である場合、さらには貸金庫に置いておく等、多岐にわたるようです。

いずれにしても内容が漏れたり、破棄や隠匿されないような工夫が必要となります。


3・遺言の執行

一般に遺言の内容を実現することを、遺言の執行といいます。

まず、その準備行為として、遺言書を家庭裁判所へ提出して、その検認を受けなければなりません。

検認は、遺言者が真に遺言者の作成したものであるかどうかを確かめ、その保存を確実にするために行われる一種の証拠保全手続きとされています。

したがって、これらを要しない公正証書遺言には、検認手続は不要です。

ただし、検認は遺言者の正当を立証するわけではありません。

検認を経ていないからといって、遺言が無効になるわけでもありません。

しかしその一方で、検認を受けていない遺言書では、登記所が受け付けてくれないのも事実です。

なお封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人(代理人)の立会いのもとで開封すべき旨定めらています。

遺言は一般に相続人間の利益が相反する場合が少なくありません。

相続人に遺言の執行をさせることは適当でない場合が少なからずあるのです。

さらに遺産の内容によっては、その執行や処理に専門的な知識を必要とする場合もありましょう。

したがって、このようなケースでは、遺言で適任者を遺言執行人に指定しておくことが適当かと思われます。

遺言執行人とは、いわば遺言者の代理人の立場で遺言の内容を実現していくべき人です。

実際にも少なからぬ遺言で、これが指定されているようです。

なお、遺言による受贈者が法定相続人ではない場合には、不動産の相続登記に際して法定相続人(登記義務者)の実印が必要となります。

しかし遺言執行人が指定されていれば、この印は不要です(公正証書遺言も同様)。

このような場合には、必ず遺言執行人を指定しておくべきといえましょう。

以上、民本の規定による『遺言』について、お話させていただきました。


次回は、『相続財産』の事についてお話させていただきます。